コラム
共有持分を遺言書で指定するときのメリットとデメリット
更新日時:2026年08月1日
共有持分を遺言書で指定するときのメリットとデメリット
相続財産に土地や建物が含まれている場合、遺言書によって「誰に不動産を相続させるか」だけでなく、「誰にどの割合の共有持分を相続させるか」を指定することも可能です。
たとえば、父親が所有する土地について、長男に2分の1、次男と長女にそれぞれ4分の1の共有持分を相続させるといった内容を遺言書に記載できます。
遺言書で共有持分を明確にしておけば、相続人同士で一から分け方を話し合う必要がなくなり、相続手続きが進めやすくなることがあります。一方で、不動産を複数人の共有名義にすること自体が、将来の売却や管理を難しくする原因になる可能性もあります。
この記事では、遺言書によって共有持分を指定するメリットとデメリット、作成時に注意したいポイントについて、実例を交えながらわかりやすく解説します。
遺言書で共有持分を指定するとは
共有持分とは、1つの不動産を複数人で所有している場合に、それぞれの共有者が持つ所有権の割合を指します。
たとえば、兄弟2人が土地を2分の1ずつ相続した場合、土地が物理的に半分ずつ分けられるわけではありません。土地全体に対して、兄と弟がそれぞれ2分の1の権利を持つ状態になります。
遺言書がない場合、相続人は法定相続分を参考にしながら、遺産分割協議によって財産の分け方を決めることになります。しかし、遺言書に不動産を取得する人や持分割合が具体的に記載されていれば、原則として遺言書の内容に沿って相続手続きを進めることができます。
たとえば、次のような指定が考えられます。
「東京都○○区○○町○丁目○番の土地について、長男Aに2分の1、次男Bに4分の1、長女Cに4分の1の割合で相続させる」
このように、対象となる不動産と相続人、持分割合を特定して記載することが重要です。

遺言書で共有持分を指定するメリット
相続人同士の話し合いを減らせる
遺言書で共有持分を指定する大きなメリットは、遺産分割協議の負担を軽減できることです。
相続人が複数いる場合、「実家を誰が取得するのか」「売却して現金で分けるのか」「不動産を共有するのか」といった問題について、相続人全員で話し合わなければなりません。
相続人同士の関係が良好であっても、不動産に対する考え方や経済状況はそれぞれ異なります。実家に住み続けたい人がいる一方で、すぐに売却して現金を受け取りたい人がいることも珍しくありません。
遺言書によって持分割合を明確にしておけば、被相続人の意思を示したうえで相続手続きを進められます。誰がどれだけ取得するのかをめぐる話し合いを減らせるため、相続人の負担軽減につながります。
被相続人の希望を反映できる
遺言書を作成すれば、法定相続分とは異なる持分割合を指定することも可能です。
たとえば、長年にわたって親の介護をしてきた長女に多めの持分を与えたい場合や、家業を継ぐ長男に事業用不動産の大部分を承継させたい場合など、家族の事情を考慮した指定ができます。
遺言書がなければ、基本的には相続人同士の遺産分割協議によって分け方を決めます。そのため、被相続人が生前に考えていた分け方が、そのまま実現するとは限りません。
誰にどの財産をどの程度引き継いでもらいたいのかを遺言書に残しておくことは、自分の意思を相続に反映させる有効な方法です。
不動産を売却せずに承継できる
相続財産の大部分が不動産で、現金や預貯金が少ない場合、相続人全員に公平に財産を渡すことが難しくなります。
不動産を1人に相続させると、ほかの相続人が受け取る財産が少なくなってしまうことがあります。反対に、公平に分けるために不動産を売却すると、家族が大切にしてきた実家や土地を手放さなければなりません。
共有持分として複数の相続人に承継させれば、不動産そのものを残しながら、各相続人に権利を与えることができます。
ただし、形式的に公平な割合で分けることと、相続後に不動産を円滑に利用・管理できることは別の問題です。共有を選択する場合には、将来の利用方法まで検討する必要があります。
相続人ごとの事情を考慮して割合を決められる
共有持分は、必ずしも相続人全員に同じ割合を指定する必要はありません。
たとえば、実家に住み続ける長男に4分の3、遠方で暮らしている次男に4分の1を相続させるなど、不動産への関わり方に応じた指定ができます。
不動産から賃料収入が発生している場合には、管理を担当する相続人に多めの持分を与えることも考えられます。
相続人の生活状況、管理への関与、介護や事業承継などを踏まえて持分を設計できる点は、遺言書を作成するメリットといえるでしょう。
遺言書で共有持分を指定するデメリット
相続後の売却が難しくなることがある
遺言書で共有持分を指定すると、相続後の不動産は共有名義になります。
共有者は自分の共有持分だけであれば、原則としてほかの共有者の同意を得ずに売却できます。しかし、不動産全体を売却する場合には、共有者全員の合意が必要です。
たとえば、兄弟3人が実家を共有している場合、2人が売却に賛成していても、残りの1人が反対すれば実家全体を売却できません。
時間が経つにつれて共有者の考え方や生活環境が変わり、意見がまとまらなくなることもあります。すぐに現金化したい人と、将来のために保有したい人が対立するケースも考えられます。
相続時には公平な分け方に見えても、将来の処分が難しくなる可能性がある点には注意が必要です。
管理や費用負担をめぐって揉める可能性がある
共有不動産では、固定資産税、修繕費、草木の手入れ、建物の維持管理など、継続的な費用や作業が発生します。
共有者全員が同じように不動産を利用しているとは限りません。実際に住んでいる人、賃料収入を受け取っている人、まったく利用していない人では、費用負担に対する考え方が異なることがあります。
「自分は使っていないので修繕費を払いたくない」「住んでいる人が固定資産税を負担するべきだ」といった意見の違いが生じると、親族間のトラブルにつながります。
遺言書で共有持分だけを指定し、相続後の管理方法や費用負担を考慮していない場合、相続人に問題を残してしまうことがあります。
次の相続で権利関係が複雑になる
共有者の1人が亡くなると、その人が持っていた共有持分も相続の対象になります。
たとえば、父親の土地を3人の子どもが3分の1ずつ相続した後、そのうちの1人が亡くなり、配偶者と2人の子どもが持分を相続したとします。この場合、もともと3人だった共有者が5人になる可能性があります。
さらに相続が繰り返されれば、共有者の人数が増え、面識のない親族同士が不動産を共有することもあります。
共有者が増えるほど、売却や管理について全員の意見をまとめることが難しくなります。連絡先がわからない共有者や、海外に住んでいる共有者が現れるケースも考えられます。
将来の相続まで見据えると、安易に共有状態を作ることは必ずしも望ましいとは限りません。
遺留分をめぐるトラブルが起こる可能性がある
遺言書では法定相続分と異なる共有持分を指定できますが、一定の相続人には「遺留分」が認められています。
遺留分とは、兄弟姉妹以外の一定の法定相続人に保障されている、最低限の遺産取得分です。特定の相続人に多くの共有持分を与えた結果、ほかの相続人の遺留分を侵害すると、遺留分侵害額に相当する金銭を請求される可能性があります。
たとえば、相続財産が実家だけであるにもかかわらず、「実家の全持分を長男に相続させる」という遺言書を作成したケースを考えてみましょう。
ほかに配偶者や子どもがいる場合、その人たちの遺留分を侵害する可能性があります。長男が実家を取得できたとしても、ほかの相続人へ支払う現金を用意できなければ、新たな争いが発生するおそれがあります。
遺言書を作成するときは、不動産の持分だけでなく、預貯金や生命保険などを含めた財産全体のバランスを確認することが重要です。
遺言書の記載が不明確だと手続きが進まない
「自宅を子どもたちで分ける」「土地は長男を中心に相続させる」といった曖昧な書き方では、具体的な持分割合や対象不動産を判断できない可能性があります。
また、遺言書を作成した後に土地を分筆したり、建物を建て替えたりすると、遺言書に記載された不動産の表示と登記記録が一致しなくなることもあります。
不動産を指定する場合は、登記事項証明書を確認し、所在、地番、家屋番号などを正確に記載することが大切です。持分についても「半分程度」ではなく、「2分の1」のように明確な割合を記載します。

遺言書で共有持分を指定した実例
父親が自宅の土地と建物を所有しており、相続人は長男と次男の2人だったケースを考えてみましょう。
長男は父親と同居して介護をしていましたが、次男は結婚後に遠方で生活していました。父親は長男に自宅を残したいと考えていましたが、次男にも一定の財産を渡したいと思い、遺言書で長男に4分の3、次男に4分の1の共有持分を相続させました。
相続直後は、長男が自宅に住み続け、固定資産税や修繕費を負担することで大きな問題は起こりませんでした。
しかし、数年後に次男が事業資金を必要とし、自分の持分を現金化したいと考えるようになりました。次男は長男に持分を買い取ってもらうよう求めましたが、長男には購入資金がありません。自宅全体を売却する案も出ましたが、長男は住み続けることを希望しました。
結果として、兄弟の意見が対立し、関係が悪化してしまいました。
このケースでは、遺言書によって父親の意思を反映し、相続時の話し合いを減らすことはできました。一方で、共有状態を作ったことにより、将来の売却や現金化をめぐる問題が発生しています。
長男に自宅を単独で相続させ、次男には預貯金や生命保険金を残す方法や、長男が次男に代償金を支払う方法を検討していれば、共有を避けられた可能性があります。
共有持分を指定する前に確認したいポイント
遺言書で共有持分を指定する場合は、相続時の公平性だけでなく、相続後の不動産の使い方まで考える必要があります。
まず確認したいのは、誰が不動産を利用する予定なのかという点です。特定の相続人が住み続ける予定であれば、その人に単独で相続させた方が、将来の管理や売却を進めやすい場合があります。
次に、ほかの相続人へ渡せる預貯金や金融資産があるかを確認します。不動産を1人に相続させ、ほかの相続人には現金を渡すことで、財産全体のバランスを調整できる可能性があります。
共有にする場合は、固定資産税や修繕費を誰が負担するのか、賃料収入をどのように分けるのか、将来売却するときにどのような方針を取るのかについて、家族で話し合っておくことも大切です。
また、遺言執行者を指定しておけば、遺言内容を実現するための手続きを任せられます。相続人同士だけで手続きを進めることに不安がある場合は、専門家を遺言執行者に指定する方法も検討しましょう。
遺言書の種類にも注意する
一般的に利用される遺言書には、自筆証書遺言と公正証書遺言があります。
自筆証書遺言は、自分で作成でき、費用を抑えやすい点がメリットです。ただし、法律で定められた方式を満たしていなければ無効になる可能性があります。また、自宅などで保管されていた自筆証書遺言は、原則として家庭裁判所で検認手続きが必要です。
法務局の自筆証書遺言書保管制度を利用している場合は、遺言書情報証明書について家庭裁判所の検認は必要ありません。
公正証書遺言は、公証人が関与して作成するため、形式上の不備が起こりにくく、原本が公証役場に保管されます。不動産の共有持分を細かく指定する場合や、相続人同士のトラブルが予想される場合には、公正証書遺言を検討することも有効です。
なお、相続によって不動産を取得したことを知った相続人には、原則として、その日から3年以内に相続登記を申請する義務があります。遺言書で共有持分を取得した場合も、登記手続きを忘れないようにしましょう。
まとめ
遺言書によって共有持分を指定すれば、被相続人の意思を反映し、相続人同士の遺産分割協議を減らせる可能性があります。不動産を売却せずに複数の相続人へ権利を引き継げることもメリットです。
一方で、不動産が共有名義になると、売却や大規模な処分について共有者同士の合意が必要になります。管理費用の負担、共有者による利用方法、次の相続による権利関係の複雑化など、将来的なトラブルにつながる可能性もあります。
遺言書で共有持分を指定するときは、単に法定相続分どおりに分けるのではなく、誰が不動産を利用するのか、将来売却する可能性があるのか、ほかの財産で調整できないかを検討することが大切です。
すでに共有持分を相続しており、ほかの共有者と売却や管理の意見がまとまらない場合には、自分の共有持分のみを売却する方法もあります。
共有不動産や共有持分の相続・売却についてお悩みの場合は、問題が複雑になる前に、共有持分の取り扱いに詳しい専門家や不動産会社へ相談することをおすすめします。